家族の肖像 44
「えっと……あんまりゆっくりしてると、帰りのフェリーに間に合わなくなるから……」
「ああ、そうか。ちっ。せっかく良い雰囲気だったのに」
心底残念そうに言う大雅に、奏はもう一度笑ってしまった。
「笑い事じゃないぞ?」
「ごめん。そうなの?さ、行こうか」
「ああ」
やっと大雅の胸から解放されて、奏は小さく安堵の息をついた。
あんな風に冷静な振りなんてしてたけど、本当は今も胸がバクバクしていた。だって、LOKIに抱きしめられたんだぞ?LOKIだぞ?ああ、俺、本当にLOKIに口説かれてたのか……。
そのまま言葉少なに歩いていると、次の遺跡に到着した。二千年以上前に建てられた邸宅跡だが、床にはイルカをモチーフにしたモザイク画が、二十世紀を経ていまだに美しく残されている。
「すごいな。こんな、雨ざらしなのに」
「ここから海が見えるぞ。イルカにはちょうど良いな」
そうしてしばらくイルカの写真を撮ったり指でモザイクタイルを触ったりしていると、大雅が奏の指に自分の指を重ねてきた。
「え……」
どうしたの、と顔を上げると、大雅は少しむくれたような顔をしていた。
「大雅君?」
「……奏さん、LOKIが好きで雑誌集めてくれてたって事はさ。……男の方が好きだったりする?」
「ち!違うよ!あぁあ、ほら、やっぱりそういう誤解しちゃうよね?だから言えなかったんだよ……!えっと……LOKIのことは、憧れ?あんな風になれたら良いなって。だってほら、俺、ちょっと頼りないだろ?なんか、子供っぽいとかよく言われるし」
「そんな事ないだろ?それ、若く見えるって言われるのを、勝手に脳内変換してるんじゃないのか?」
「え〜?そうなのかなぁ……。うん、でも、ありがとう」
大雅にそう言われると素直に嬉しいが、だが自分より六つも若いのに、自分より遙かに落ち着いている大雅に言われても、あまり実感は湧かなかった。
奏が複雑な顔で唸っていると、大雅はまたぽつりと先を続けた。
「……じゃあ、優吾さんとは何でもないんだよな……?」
「優吾と?何でもないって……?」
「……だから、その……付き合ってる、とか」
「はぁ!?優吾と!?」
驚いて大雅の顔をガン見してしまうと、大雅の顔は真っ赤だった。
「え?なんでそんな顔……。いや、ないから。ないない。優吾とは絶対ないよ!」
「そっか。良かった……」
そう言うなり、大雅は自分の頭を抱えて地面に顔を伏せるように小さくなってしまった。
「どうしたの?大丈夫?」
「いや、俺かっこ悪いと思って……。ごめん、幻滅した?」
低い位置からチラリと自分を見上げてくる大雅のあざと可愛さに、思わず奏の胸がどきりと跳ね上がる。やばい。大雅君、ギャップ萌え過ぎるだろ!
「いや、幻滅なんかしないよ!でもどうしたの?優吾との仲を誤解してたから?っていうか、すごい誤解してるよね」
「いや、誤解じゃないだろ?少なくとも、優吾さんはそうなんじゃないの?俺エネミー認識されてたよな?あの人、独占欲丸出しだったぞ?」
「そんな事ないと思うけど……」
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