家族の肖像 26
◇◇◇ ◇◇◇
バンガローとは名ばかりの山小屋の中で、奏はぽっかりと目を醒ました。小屋の中には小さな卓袱台が一つあるばかりで、皆銀マットの上でシュラフに入り、酒臭い寝息を立てている。
「あ〜、今何時だ?」
時計を確認しようにも、腕時計をつけた左腕もシュラフの中だ。モゾモゾとシュラフのジップを中から下げている間に、すっかり目が醒めてしまった。
時計を確認すると、まだ三時過ぎだった。草木も眠る丑三つ時。とはいえ、大量のアルコールを摂取した後だし、トイレは済ませておきたい。
「……トイレ、坂の上だよな……。ま、しょうがない。行くか……」
夏が近いとはいえ、山間(やまあい)の夜はグッと冷える。上着を羽織って外に出ようと思ったら、周りに寝ている頭数が足りていないことに気がついた。
「あれ?一、二、三、四……俺入れて六?やっぱり、一人足りない……」
暗くて誰がその場にいないのかは分からないが、まぁ、きっとトイレだろうから、自分が行けば途中ですれ違うだろう。そう思って、奏はバンガローのドアを開けた。
「あ、奏さん?」
「え?」
てっきりトイレにでも行っているのかと思っていた相手は、バンガローの外のベンチに座って、外を眺めていた。
「あ、大雅君か。ごめん、寝づらかった?ちゃんとベッドのあるバンガローにしようかとも思ったんだけど、そういうのがあるキャンプ場は結構人気で利用者も多いから、人の少ないキャンプ場と思ったら、こういうとこになっちゃって」
「いや、皆で雑魚寝とか、あんまりしたことないから楽しいよ。テントでも良かったのに」
「そう言って貰えると助かるよ」
それでもこんな所に座っているのだ。堅い床の上に薄い銀マットで眠るなんて、体が痛くなったのかもしれない。体が資本のモデルを誘って良い場所ではなかったかと反省するが、それでもそうやって気を遣ってくれるところが大雅らしい。
「ひょっとして、俺を探しに来た?」
「いや、トイレ」
「あ、じゃあ俺も行くわ」
大雅はすぐにスマホのバックライトをオンにすると、「足下悪いから気をつけて」と奏をエスコートしてくれる。
「さすがに海外セレブはエスコート馴れしてるね」
「奏さんだって、パリ生まれのベルリン育ちだろ?」
「ははは。男だから、エスコートされたことはないよ」
用を足して戻ってくると、そのまま二人はバンガローの中には入らず、そのまま外のベンチに腰掛けた。
「何か飲む?」
「そうだな。あ〜、でも明日、すごくむくみそうだな」
そう言いながら、奏はまだクーラーボックスに残っていたビールを取り出した。見ると、大雅はミネラルウォーターを飲んでいたらしい。モデルは一日二リットルの水を飲むというのは、どうやら本当のようだ。
「どう?来てみて。どうしても内輪話が多くなっちゃうから、退屈なんじゃない?」
「っていうか、なんにも仕事させてくれないからさ。ボッチで寂しかったよ」
「ごめん」
長い足を組んでペットボトルを手の中で転がしているだけで絵になる男だ。すごいな、LOKI。美しすぎる。
「……ね、奏さん」
なんとなく大雅の顔に見惚れいてたら、急に名前を呼ばれて正直焦ってしまった。気がつくと、目の前に大雅のすさまじい美貌がある。その近い距離に、先日のアパートでのやりとりを思い出して、思わず顔が赤くなった。
「結婚って、家同士の結びつきって言うだろ?大成はちゃんと寧音に自分の話をしたと思うんだけど、奏さんにも言っておいた方が良いかな、と思って」
「……無理して言わなくても良いんだよ?夫婦二人だけで結婚する人達だっているんだから」
「ああ。でも、奏さんにはちゃんと聞いて欲しい」
「分かった。話して?」
それで君が楽になるんなら、とは、言わなかった。だが、きっとそれは大雅に伝わったのだろう。大雅は小さく「ありがとう」と言ってから、話し始めた。
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