ある夏の日 9(完)
◇◇◇ ◇◇◇
台所に水を飲みに行く自分の足が、プルプルと震えているような気がした。夕方前にはここについたはずなのに、外はもうすっかり暗い。
衛が台所に入ると、そこにはシンクに寄りかかるようにして立っているヒロがいた。
「ヒロさん……?」
「衛さん……。あ、お水ですか?」
「う、うん。良い?」
「もちろんです」
珍しくシャツのボタンを2つ開け、気怠げに立つヒロから……何というか、こう……色気が立ち上っているような気がする……。
「えっと……ヒロさん……?」
何その色気……。え?どうして?じ、事後にしか見えないんだけど……。
え?事後?
いやいやいや。待って待って待って。だって事後って……相手がいないとできないし……
って、相手……?相手……相手……
………………まさか、桐生さんと……?
いや待って、ヒロさん奥さんいるんだし……いや、桐生さんってヒロさんの事好きだよなぁとは思うけど……でも、そういう意味の好きなのかどうかは桐生さんの態度だと分かりづらいし、第一ヒロさんは風子ちゃんと仲良し夫婦だし……そ、そうだよね?だって風子ちゃんいつもヒロさんの事大好きってのろけてて……あ、待って?前に風子ちゃん、ヒロさんと桐生さんのことラブラブとか言ってなかった?いやあれ冗談じゃなくて本気だったとか?いやいやいや、そんな、ヒロさんに限って風子ちゃんがいるのに桐生さんと、なんて……!!
グルグルする衛に、ヒロがコップについだ水を渡してくる。そのヒロが、なんだか眩しいんですけど!!
「衛さん?あ、すいません、俺、ちょっとだらしない格好してますよね」
「いや、えっと……」
慌ててヒロがボタンを閉める。いや、うん。そうだよね。そこ開いてるだけで、なんかずいぶん色っぽいって言うか……ヒロさん、元が綺麗だからすごい目のやり場に困るんだけど……っ!!
「旅先だと思って、少し油断しすぎでしたね。すいません、仕事中なのに」
肩に掛かるウェーブの黒髪を耳に掛けながら困ったように笑うヒロに、いつもの「明るく気さくなお兄さん感」はない。
ってゆーか、ヒロさん、綺麗なお姉さんは好きですか状態なんですけど……っ!どこ見たら良いの!?ヒロさん、その妙に充実したおなかいっぱいのツヤツヤなオーラ、少し隠して……!!
自分だって妙に充実したおなかいっぱいのツヤツヤなオーラを出しまくっていることには全く気づいていない衛は、なんとなくヒロから目を逸らした。
ちなみに、そんな衛にヒロは馴れているのでスルースキルを身につけている。栄次が隙あらば衛に悪さするのはデフォルトだし、そこでヒロが『見ちゃいました』という顔をすれば、衛が恥ずかしがって余計に栄次に怒り出すから、このスルースキルは相当早いうちに身につけてあるのだ。
ちなみにタカシは栄次から「何見てるんだ?ぁあっ!?」とにらまれる事にいまだに馴れていなくて、それで栄次と衛のイチャイチャにぎこちなくなってしまうのだが、ヒロはそういうことだとは気づいていないようだ。
とにかく、そんなわけでいつも栄次と衛のいちゃいちゃには平気でスルーできるヒロではあるが、逆の立場になるとは思ってもいなかったヒロでもある。まさか自分も衛同様にダダ流しているなんて思ってもいない。自分たちが致してしまったことに気づかれていないと思っているヒロと、気づいてしまっている衛。気まずい。メチャクチャ気まずい!!
衛は頭の中で『平常心平常心』と唱えているのだが、そのせいで余計におかしなオーラをまとってしまうことにも気づいていないらしい。
そのとき、なんともいえない空気になってしまった台所の中に、バタバタと空気を読まない足音が飛び込んできた。
「兄貴〜!夕飯買ってきました!今日は寿司っすよ!」
タカシだ。手には大きな寿司桶を持ち、すごいでしょう!?と見せびらかしている。
「おう、ずいぶん豪勢だな。どこまで買いに行ったんだ?」
「詰め所に詰めてた匹田のオジキが届けて下さったんすよ!桐生の組長さんから言われたんですって!ほらほら兄貴、おなか減ってるでしょ?さっさと食べちゃいましょうよ!あ、組長さんどこっすか?」
べらぼうに空気を読まないタカシのコレは、わざとなの!?わざとピンク色なオーラを追い出そうとしてくれてるの!?ありがとう、タカシ!お前の空気読まないスキルに、二人とも心底救われてるよ!??!?
「そ、そうだな。早く飯喰っちゃおうか!」
「そうしましょう!あ、衛さん!花火持ってきたんすよ!やりますか!?」
「や、やろう!うん!皆で花火!夏休みっぽくて良いよね!?」
妙に必死な衛と、状況をよく把握してないヒロ、そして空気読まないタカシのコンボ。組長と筆頭組長補佐の二人は、隙あらばえっちすることしか頭にないぞ!?
どうする衛さん&ヒロ!!
夏の楽しい旅行は、まだ始まったばかり!
〜おしまい!〜
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いかがでしたでしょうか。いきなり始まりました「ある夏の日」でございましたが、ほんとにイチャコラしてるだけですいません💦
あ、ひょっとしてゴッチャになってしまった方がいるかと思いますので、こちらでちょっとだけ説明をさせて下さい!
以前「光のさす方へ」が終わった後に、突っ込みマンガを載せたのですが(「突っ込みマンガ その1」「突っ込みマンガ その2」)、この中で衛さんと風子ちゃん、当たり前のように桐生さんとヒロさんができてることについて話してましたが、あれはあくまでもパレラルワールドの二次創作でござます💦
実際に衛さんと風子ちゃんは仲が良くて、ヒロさんも交えて女子会はよく開いてるのですが、風子ちゃんはそういうときはヒロさんとはめっちゃ仲の良い夫婦として衛さんに接しております!だもんで、衛さんはヒロさんと風子ちゃんはホントに仲が良いなぁ、理想の夫婦だなぁ、などと思っているんですよ〜💦しかも桐生さんは栄次さんが焼き餅焼くので、あまり衛さんの前に出ないようにしているし、誰に対してもあんな態度だし、ヒロさんはどこの誰が見ても「兄貴命の舎弟」にしか見えないので、衛さんは桐生さんとヒロさんの事は今まで知らなかったようです💦💦
……いや、今回のでバッチリばれたがな……。
「風子ちゃん!!風子ちゃん、あのヒロさんと桐生さんのこと……いや、えっと、あの……」
「あ、ヒロちゃん、ホントに桐生の兄貴さんと仲良しですよね♡」
「いやあの、仲良しって言うか、その……」
「も〜、ホントにあの2人ラブラブで〜♡」
「え?ラブラブってそういうこと!?本当にそういうことだったの!?」
的な!?
いや、衛さんはいつも色々鋭い人ですが、結構恋愛に関しては鈍い所がありますので……💦
特に自分の仲のいい人の恋愛に関しましては結構鈍いです💦
ということで、これから衛さん、ヒロさん見るたびに「ど、どうしよう……どんな顔してヒロさんに会ったら良いのか分からないよ……!」とか、「え?それじゃあヒロさんと桐生さんは風子ちゃん公認の浮気になるの……?」「浮気?いや、え?そうだよね?風子ちゃんとはちゃんとご夫婦なんだよね?」「えぇ〜!?ヒロさん、まさか尊敬する兄貴である桐生さんに押し切られて……とかないよね!?ヒロさん大丈夫!?」などと見当違いなことを考えてくれるのではないかと思うと、ニヤニヤが止まりません(笑)
あ、それと、「銀ちゃんは!?銀ちゃんなんで出てこないの!?」と思われた方がいらっしゃるかかもしれないのですが(ほんのちょっとしか出てきていないのに、銀ちゃんを気にして下さる方が結構いらっしゃるようなのですありがとうございます!)、銀ちゃんはタカシ君意外とほとんど口を利かないので……orz 相手が組長であるヒロさんであっても、「……っす」程度しか普段喋らないので、今回ほとんど出番は無しでございます……(TдT)
つうか銀ちゃん、タカシ君以外どうでも良い子だしな……。衛さんと組長が何してようが、ヒロさんと桐生さんが何してようが、銀ちゃんからしてみたらどうでもいいし……。
あ、そのタカシ君は相変わらずヒロさんのワンコです。
そんなタカシ君と銀ちゃんのお話も書きたいな〜とか思っているのですが。
今は目の前のお話を書くことに頑張って、またできるだけ早く次のお話をアップしたいと思っております💦💦
次のお話は「結晶シリーズ」の、「赤く光る海」の番外編で、「薔薇の盛りの頃に」と、珍しくタイトルが先に決まっております!
もう少しお休みをいただいてから、できるだけ早めのアップを考えておりますので。その時には皆様、ぜひ遊びに来て下さいませ!
こんな感じの亀の歩みのごときブログですが、皆様、今年も一年よろしくお願いします!!!
あ、最終回なのでいつも通りコメント欄を開いておきますね。
よろしければ足跡代わりに「むしろ栄次さんと桐生さんが犬も食わなさそうな……」だけでも良いので書き込んでいただけますと、イヌまっしぐらに喜びます!!
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それでは皆様、『ある夏の日』全9話にお付き合い下さいまして、本当にありがとうございました!
皆様、またどうぞ遊んでやって下さいませ〜〜!
イヌ吉拝
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当blogのお話を、夜10時ごろアップしていく予定です。
表紙は書き下ろしになります。
まだ未読のお話がありましたら、ぜひご覧下さい。
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6周年記念小説完結ありがとうございま
くぅーー
御馳走さま。