赤く光る海 47
◇◇◇ ◇◇◇
2人で絡まり合うように横になって、大竹と設楽は名前のつけられない気持ちに充たされていた。気持ちを重ねた幸福感。今ここにお互いがいるという充足感。初めて洞窟から出てきた後のような、眩しさも感じる。
だが、きゅうと小さな音が鳴って、その空気がどこかにするすると逃げてしまう。2人はそっと目を見合わせた。
「ごめん、おなか減った」
可愛らしく設楽が首を竦めると、大竹は笑い出しそうに目を細めた。
「朝も昼も食ってないもんな。下行くか?」
設楽はその提案に一瞬だけ考えるような素振りを見せた。この不思議に満ち足りた空気を、手放したくなかったのだ。
だが、容赦なく体は空腹を訴えてくる。仕方ない。背に腹は代えられないのだ。設楽がこくりと頷くと、大竹も頷いて、そっと設楽の額にキスを落とし、それから2人は下に降りていった。
冷蔵庫の中には、作りかけのブランチがあった。先ほど、是枝と設楽が準備をしていた物だ。溶いた卵とサラダのボウルにはラップがしてあり、フライパンの中のソーセージも皿に移されて、やはりラップがかけてあった。
「後パン焼いて、ソーセージ炒めて……、こっちはスクランブルエッグか?」
「チーズ入れてオムレツにしようとしてたんだ。そっちは俺がやるから、慎也はコーヒー淹れてもらって良い?」
「ああ」
宮嶋達の分はどうしようかと考えていると、ギシギシと足音がして、当の2人がキッチンに顔を出した。
「やぁ。足音がしたから、やっと食事かと思って僕たちも降りてきたよ」
「階段、やっぱり音気になりますか?」
「ああ。でも、誰かが登り降りすればすぐに分かるから、便利かもしれないね。あれはこのままで良いんじゃないかな」
大竹と是枝は、穏やかに話をしている。設楽は宮嶋の顔を見て何か言おうとして、でもどうしても言葉を口から出すことができなくて、ぐっと息を飲み込んだ。
胸の中には、それでもなおどうしようもない塊があるのだ。
「こんな時間だし、この後はどうしようか。町の探索は明日にした方が良いかな」
「俺達は夕飯にピザを焼こうと思っているので、その準備に出かけます。是枝さん達は、2人でゆっくりしていてください」
「ピザか、楽しみだね。期待してるよ」
のんびりと是枝が頷くと、大竹がニヤリと笑う。
「2人共、ピザ釜の使い方を覚えないといけないんですから、ちゃんと手伝って下さいよ」
大竹が笑いながら茶化すと、是枝も笑顔で肩を竦めた。
だが、やはり設楽と宮嶋の顔は、まだ固い。
キッチン内の気まずい空気を物ともしない大竹と是枝のスルースキルに設楽は少しだけ救われたような気がして、小さく息を吐き出した。
ソーセージが香ばしく焼き上がり、チーズオムレツはとろとろに出来上がった。サラダをボウルに盛りつけ、焼き上がったトーストも皿に載せてダイニングテーブルに運ぶ。ジャムやバター、パテは是枝が出してくれた。
「いただきます」
4人揃って挨拶をする。
ずいぶん遅めのランチになってしまったが、顔を合わせて食事をするのは大切だ。大竹と是枝の声ばかりが響いているが、時々話を振られて設楽や宮嶋もなんとか会話に参加する。大竹がこれだけ話をするのがレアだと皆知っているが、それが何ゆえか、それも皆が知っていた。
食事も終盤にさしかかった頃、是枝がおもむろに「そういえば」と切り出した。
<次> <戻る> <初回> <名簿> <目次> <総合目次> <トップ>
いつもポチありがとうございます!とても励みになります!
ランキングも頑張っておりますので、もし良ければ村の方もポチっていただけると喜びます!(๑╹ω╹๑ )
妄想を垂れ流しているツイッターです(笑)
アカウント@inu___kichi
BL小説・マンガ投稿サイト【fujossy】に登録しています。
当blogのお話を、夜10時ごろアップしていく予定です。
表紙は書き下ろしになります。
まだ未読のお話がありましたら、ぜひご覧下さい。
→→→【fujossy】イヌ吉
JUGEMテーマ:JUNE/BL/ML